***  お侍様 小劇場 extra

     “寵猫抄” 〜もしものその後…? B
 
 


広々としたリビングには、窓辺に金色の陽だまりが出来ており。
ぬくぬくとしたそんな中にて、
熱つものにでもさわるかのような、おっかなびっくりという触れようで、
小さな手がちょいちょいとつつくのは、
ミラー仕様になった真っ赤なグラスボールだ。
なめらかな鏡面に、魚眼で見たような膨らみようで、
丸っこいお顔が写り込んでおり。
だがだが、ご本人にはそんなことよりも、
キラキラ光る玉なことが関心を引いている模様。
ムートンの毛並みの上に丸ぁるいお膝を半分ほど埋めての座り込み、
小さな両手で右から左へ、ころころ、ころころ。
今度は逆に、ころころ、ころころ。
夢中になって遊んでいるうち、
吊るすための小さな金具が指先に引っ掛かる。

「…っ。」

浮かせた手へと、勝手にくっついて来るのへ あややと驚き、
ぶんぶんと振って振り落とそうとするのだけれど。
どこへ絡んだものだろか、これがなかなか外れない。
かといって、
そのままでは手をつくにも玉が挟まっての邪魔だったらありゃしない。
うう〜〜〜っとムキになりかかれば、
その手をひょいと優しく持ち上げてくれた手があって、

「おやまあ、爪に引っ掛かったんですねぇ。」

痛かったでしょう、じっとしていてくださいね。
優しい手際で、そおっと外してくれる人。
そら取れたと、にっこり微笑った笑顔がきれいで、

「……。////////」

何でだろうか、頬っぺが熱くなって来て。
うにむにと口許がたわんでしまう。
背中やお尻がむずむずするので、ぴょいってその場から立ち上がり、

「……vv」

そのまま相手のお膝へと駆け登ると、
うみゃ、ありがとありがとvvと、
こちらへやんわり うつむいてくれたお顔の、
やあらかい あごの先とかお口とか、
ちゅっちゅっちゅってキスをしてあげて。

「あっはははvv これこれ、くすぐったいvv」

いい子いい子って髪やら背中やら撫でてくれる柔らかい手。
玉子色のセータを着たふかふかな懐ろに、
うみゃ〜っvvと両手を広げて ぱふんと埋まれば、
甘い匂いにくるまれて、ここもそこも暖かい。
ご飯をくれる、シチという人。
なんだい? どうしたの?って、
いつもいつも優しいお声をかけてもくれて。
おかかおにぎりもアジの焼いたのも、
ササミのさいたの たんと沈めた、ほかほかのスープも。
ふっかふかのタオルのお布団も、
ウサギの毛の寝床も。
何でも作れてしまうやさしいお手々は、
すっごい もしゃもしゃなシュマダの毛づくろいも出来るから、
まるで魔法使いの手みたいで。

「おお、飾っておるな。」
「おや、勘兵衛様。」
「にあvv」

 すみません、喧しかったですか?
 なに、今まで気づかんかったほどだ。
 原稿の方は?
 メール添付して出版社へ送った。
 まったく、この時期に締め切りだなんて、一体どこのコミケに出る本ですか。
 おいおい…。
(笑)

そんな会話のすぐ真下では、
小さな仔猫が…相手が歩を進めて来るのももどかしいとばかり、
自分から飛びつきに行って、幼い爪で足元から胸元までを駆け上がる。
懐ろへまで登り詰めれば、
大きな頼もしい手がお尻と背中を支えてくれて。
ソファーに座りがてら、よ〜しよしと撫でてくれるのが暖かい。

「ああ、これ。くすぐったいぞ。」
「にゃぁあvv」

シチも好きだし、シュマダも好き好きvv
いいによいのする懐ろで、後足で立っての首っ玉へと抱きついて、
お髭や頬へ“好き好き好き〜”とチュウをする。
だって我慢してたのだもの。
しっぴつとかいうのは大事なことだからねって、
だからいい子で待ってようねって、シチに言われた。

 『キュウゾウは聞き分けのいい子だもの。だから・ね?』

そんなこんなで、
今の今までかかりきりだったらしい、
本年度最後の執筆から解放された島田先生。
愛らしい坊やの温みに歓待されつつ、
リビングに出された大きめのツリーの見事な飾り付けへも、
うむうむとご満悦そうに目許を細めておいで。
その実家は 代々引き継いで来た由緒正しき剣術道場を営んでいたような、
どちらかといや古風な家の出の勘兵衛だったものの、

「そいや、ご実家にも も少し大きいツリーセットがありましたね。」
「ああ。町内会の子供らが何かというと集まった関係でな。」

剣術と書道とソロバンを両親が曜日別に教えていたので、
ご町内の小学生たちは、そのどれかへ関わる格好で網羅されており。
ならばと、寒稽古から花見に七夕、クリスマスまで、
子供会のたいがいの行事もついでにこなしていたらしい。
道場に祀ってあるのは神様だったりもするので、
信仰はおいといてという、単なる“歳時記の一環”というところかと。

「すっかりと日本の行事だな。」
「そうですねぇ。
祝い方というか楽しみ方は、本場のとは微妙に違いますものね。」

そもそもの宗教的な理解は追いついてない人が大半だろう、
言わばイベント扱いの行事であり、
由来くらいは知っていたって、そこをこそ重要と構える人は少なかろう。

「聞いた話じゃあ、忘年会帰りの父親へ向けて、
 家族の土産にケーキをどうぞって勧めようという
どこぞかの企画があったのが始まりだとか。」
「成程なぁ。」

だが、キュウゾウがいるのに飾って大丈夫なのか?
この子は賢い子ですよ? 花瓶を蹴倒したこともない。
そうさの、先だっても編集の林田くんが感心しておった。
おや、それは初耳だ。

「放し飼いの猫がいる家では、生花を飾るのは諦めるもんならしい。」

なので、ウチのようにいつも何か飾っている家は珍しいらしいと笑った勘兵衛へ、
言って聞かせて通じる子ですしねぇと、七郎次がやわらかく微笑い返す。
自分のことが話題になっていても、大人のお話は詰まらぬか。
綿毛をもしゃもしゃ撫でてくれてた勘兵衛の手が止まったのへと焦れて、
こっちを向けと言わんばかり、堅い指をあぐあぐと幼い歯がかじっていたが。
その手があごの下へすべり込んで“よしよし”と撫でれば、
たちまち赤い双眸が笑んでのたわみ、甘いお声が“な〜うvv”と鳴いた。
随分とご機嫌さんな様子ではあるけれど、

「実はさっき、飾り付け前のツリーに登ってコケかけましてね。」
「おや。」

 『みぎゃっ!』
 『キュウゾウ?!』

見た目以上に軽い子ではあるのだが、
それでも鉢植えの樹は安定が悪いので。
さして登り詰めぬうち、
ぐらりと来て下敷きになりかけたのが余程のこと怖かったのか、
あ、いえ、ぎりぎりで受け止めたんで難は免れましたが。

「また倒れて来ないかと怖いのか、傍まで近寄らないんですよね。」

モールやクロス、星に天使にグラスボール。
きらきらと光る素材のオーナメントに しきりとじゃれかかりつつも、
それらが七郎次の手でツリーに吊るされると、
大人しく眺めているだけなのはそんなせいだと聞き、
おやおやと勘兵衛の目元が微笑ましげに細められる。
今も、大人たちから離れてのトコトコと、
くだんのツリーの方へと寄って行ったものの。
間近には寄らずに立ち止まってしまう彼であり。
正座を崩しての、
脚の間にお尻を落とし込んだような座り方は何とも愛らしく。
細い肩をちょこっと落とし気味にし、
薄くお口を開いて、自分よりも背丈のあるツリーを見上げる様は、
それだけで、この時期にはうってつけの1枚の絵のようで。
自分たちには5つくらいの男の子に見える彼だが、
傍らのサイドボードのガラス戸に写り込む姿は、
そのまま毛玉にも見えかねないほどの ふわふかな毛並みも愛らしい、
メインクーンという種の小さな仔猫だったりもするものだから。
そちらの姿で一心にツリーを見上げる態もまた、何とも言えぬ愛らしさ。
二通りの可愛らしい構図を楽しめる眼福に、
ただそれだけでもついついお顔がほころんでしまうというもので。

「猫の方の年でならまだまだ赤ん坊なのかも知れませんから、
 恐らくは初めてのクリスマスなんでしょうね。」

春に生まれたのかそれとも秋生まれか。
どちらにしても初めての冬だろうから、
こんな飾り物へもお初のご対面に違いなく。

「クリスマス向けの姿ではあるな。」

金色の綿毛のような髪といい、玻璃玉のように透いた瞳といい。
色白なんてもんじゃあない、
混じりっけのない上等のロウソクのように、深みのある白い肌といい。
その風貌がどちらかと言えば欧州仕様の彼であり。
だが、それを言い出すならば、

「ウチの人間は三人ともクリスマス向けですって。」

七郎次もまた、その古めかしい名前とは裏腹、
手に掬えばさらさらと涼やかな金属音が聞こえそうなほどの見事な金髪に、
深いところに光を呑んだような真白き肌と、
ガラス細工のような青い眸という、
久蔵に負けず劣らずな容姿をしているし。
この時期に教会前を通ると、
必ずと言っていいほど…
ミサに招いた牧師さんや神父さんと間違えられる勘兵衛だし。

「先だっては中東系の集会に引っ張り込まれかけたがな。」
「ちょうどお祈りの時間だったからですよ。」

何ともインターナショナルなご一家であることよ。勿論のこと、

「???」

何の話だか判っていない久蔵が、キョトンと小首をかしげたのへと、
傍らまで立ってゆき、ひょいと手を延べ抱き上げて。
入れ替わるようにその場へ腰を下ろすと、お膝へ坊やを招き上げた勘兵衛、

「よいか? 久蔵。クリスマスというのはな。
 サンタという若者が、
ヤドリギの下で恥をかかされた主君の敵討ちにと、
 46人の同志を集め、
雪の降る中をキラーという代官の家へ討ち入りをした話での。
 真夜中のこととて、味方同士で切り合わぬように合言葉を決めておって、
 メリーと聞けばクリスマスと返すという…。」
「にゃ?」

小さな子供をお膝へ抱きかかえてやって、
そんなトンチンカンなことを滔々と語り始めた困った御主へは、

「……勘兵衛様、実は眠いのですね。ちょっとでいいから寝て来てください。」

いかにも生真面目、誠実そうな御面相でおわすのに、
その実、一体どんな原稿を書いていたものなやら。
困ったことだと苦笑をし、
有能な秘書さんがほらほらとお尻をたたいて差し上げる。
今年も随分と押し詰まって来ましたが、いいクリスマスになるといいですね。



  〜どさくさ・どっとはらい〜  08.12.20.


  *ふと思いついたので、にゃんこキュウにて一席。
仔猫のキュウさん、猫でいるときは意識に封印掛けてるらしく、
役目があって大人Ver.へ戻った折は、
日頃を思い出して仄かに恥らってたりしてvv

   冬のコミケへ、
   オフセは間に合わなんだがコピー本でもいいから頑張って出すぞと、
   目下 奮闘中の皆様へ、愛を込めてvv


めるふぉvv
めるふぉ 置きましたvv **

ご感想はこちらvv

戻る